キリムNo.: KJ16095
産地: アイドゥン、アンティークキリム(ウール/ウール)
寸法: 318x150cm
それまでオークションやキリムの本でしか目にしたことがなかった貴重品、アイドゥン・キリムをまじまじと見たのは1990年です。年代物のキリムを美術館のように展示し、販売していたキリム屋さんは、アイドゥンの前で動かない私たちに声をかけてきました。
圧倒されていたキリムは、長さが3m以上、幅が1.5m位の大きさです。白い天然ウールのベース地に、暖色系の様々な色で大きい柄と小さい柄がビッシリ織り込まれた華やかキリムは、3m以上ある壁に絵のごとく掛けられており、その存在感は周りのキリムを飲み込まんばかりでした。
「エーゲ海に近い肥沃な土地アイドゥンは、昔はギュゼルヒサール(美しい城)と呼ばれた町で、貿易と傭兵の中心地として栄えてきた。今ではこの様なキリムを織る織り手はいないが、赤、青、アプリコット、緑や茶などを使った明るい色相のキリムが織り継がれてきた。コンヤと似たデザインがあるが、柄の多さは断然アイドゥンさ。これほどの仕事はアイドゥンの織り手の独壇場ゆえ高い評価につながっている。」と、話しました。
目の前の多色使いのアイドゥンには圧倒され、手が出せない私たちでした。
それ以降、沢山の情報をくれた問屋さんが、1997年、「待っていたよ!」と広げ、高い壁に掛け、見せてくれたのが、当時、もう少しで100年のこのキリムです。
私たちは思わず「ホーッ!」と声をあげ、しばらくの間、無言で見とれていました。
アイドゥンには珍しい渋い藍、緑と赤の爽やかな上等のキリムです。地になる部分の深い臙脂(えんじ)の赤色は、何度見ても惚れ惚れします。白みが抑えられた天然のウールは柄の中にアクセントとして使われ、赤色と藍色とのバランスが良く、使い込むほど増してきた落ち着いた雰囲気が見事です。
100年以上の耐久性を考えた織り手は、時間がかかる作業ですが、縦糸に二本の糸を一本に撚った双糸(そうし)を使いました。赤色は、蘇芳(すおう)、茜、臙脂(えんじ)、薄紅、茶などを出せる植物を使い、まるで魔法使いのごとく欲しい色を生み出し、技量を十分に見せるキリムに仕上げています。藍色、緑色もしかりです。
生まれながらに織る事と色彩感覚に優れた織り手の100年を超えた作品は、私たちのため息を誘いながら織り手の世界へ誘います。
ベレケット=豊穣、 眼=邪視除け、 ドラゴン=豊かさをもたらす、 羊の角=繁栄、たくましさ、鳥=幸せの予感