キリムNo.: KJ39304
産地: コンヤ、ベイリーオールドキリムクッション(ウール/ウール)
寸法: 35x51cm
長い間ストックルームの下で眠っていたキリムです。
春の日差しに誘われて広げたのは、100年近い上等のコンヤキリムです。光に充てると、藍、茶と黄はだ色(黄色がかった黄土色)は、「これが実力です」と言っているようです。上質のウールと植物の相性が良く、古さの持つ見事さは、どのような天気でも艶やかです。
すっかり無駄毛がなくなり心地よい肌触りが、落ち着いた色調のキリムを一層気持ち良くしています。しかし、見続けていると何かしっくりこない部分が見えてきました。
びっしりと入れられている色糸は、一目で誰もが熟練した織り手の仕事とわかるように、実になめらかです。しかし、しかし、天然の白色部分の織りは「フン?」と思わず声が出るほど落ち着かず、あっちこっちを向いており、明らかに初心者の仕事です。何が起こっているのでしょう?
これは遊牧民がテントの中で使った自家用チュアル(衣類袋)です。
織りを習得させる良い機会と考えた熟練した織り手は、なめらかに織られた自分の織りの先を、嫁入りが近い孫娘に織らせたのでしょう。祖母が撚った天然の白いウールは、太さも強さも均等です。
祖母の織りを、見よう見まねで引き継いだ孫娘は、緊張と嬉しさからか、糸が中々均等に入れられません。懸命に努力を重ねた結果、祖母と孫娘の競作チュアルが出来上がりました。
15~6で嫁ぐ娘たちの持参品キリムを織るのは母や祖母です。糸、染め、織りの三拍子がそろった出来栄えが上等の持参品キリムをもって嫁ぐ娘は、良い嫁として、婚家でかわいがられたそうです。
若い娘は、これからは婚家で新しい家族のためのキリム作りに励まなければなりません。
そんな孫娘を心配しながら、良いキリムの織り手となり、部族の伝統を次世代に伝える担い手となることを願いながら、出来栄えに目を細める祖母の姿が見えます。
こんなストーリーを考えながら向き合うと、新人と熟練者の競作であろうキリムの担う役割に、思わず背筋が伸びます。一家の歴史と愛情が詰まったキリムです。。