キリムNo.: KJ14849
産地: アナドルー、セミオールドキリム
寸法: 123x130cm
私たちがコレクションキリムを選ぶときの基準は、「驚き」のあるキリムです。どれも、糸、染め、織りの三拍子が揃ったものです。
驚くほど強く細く撚られた糸は、長い間の使用に耐え100年以上楽しめる力を持っています。熟練した腕と水と光の共同作業が、透明度の高い鮮明な色糸を染め上げます。そして、織り手の絶え間ない努力と根気が、滑らかで美しい織物を生み出します。
この様なキリムとの出合いを探し、トルコでは沢山の問屋さんを訪ねます。私達の目と姿勢を支持してくれる問屋さんのお陰で、コレクションは広がっていきます。
時に、「驚き」の基準が変わります。これは1996年、「何?あり得ない!」と驚かされたキリムです。型紙のない織物がキリムとは言え、この柄付けは何?この織りは何?この色使いは何?このたどたどしさは何?と、沢山の驚きに、出合いを手に入れました。
「どうすればこの様なキリムが織れるの?」と尋ねる私たちに、「キリムの織り手は初心者もいれば熟練者もいる。昔は、織りが好きな人も嫌いな人も、皆、自家用のキリムを織らねばならなかった。辛い辛いと思いながら織った人もいるだろう。また、織ることが好きでも、器用に形を織り込めない不器用な織り手も沢山いたと思うよ。この織り手のように飛びぬけた創造力や感性の持ち主もいた。基準から外れていてもそれは個性さ。キリムは織り手の声と心だ。」と、含蓄ある言葉で説明してくれた問屋さんでした。
縦糸は、少し撚りの甘いコットンが使われています。
横糸のウールのピンク、青みを含んだ紫とすみれ色は化学染料で染められた、当時としては斬新な色合わせです。赤、オレンジ、ピンクと紫を組み合わせている独特な色彩感覚の織り手ですが、色の配分やバランスは気にせず思いのまま手を動かしています。柄を中心に置いたり、左右のバランスなど、見た目の安定にも無頓着です。でも懸命に横糸を入れ独自の世界を織り進む姿勢は、キリムの本来の姿を素直に見せているのかも知れません。
初心者は、横糸の入れ具合や張り具合が一定でなく、どうしても波打つような織物を織ってしまいます。この織り手も、最後まで滑らかな糸入れが出来ませんでした。
美しいキリム作りより創造の世界を表現することにエネルギーを注いだ織り手は、現代なら、オリジナリティ溢れるアーティストとして高い評価を得られるでしょう。
いつ広げても、「驚き」が最初に目に飛び込んでくる、おかしなキリムです。