キリムの糸、染、織?

1.キリムは誰が織っているのですか?
昔も今も、キリムの織り手は女性達です。キリムが基幹産業である現在では、トルコでは、時に男性の織り手に出会えることもあります。
2.キリムの素材は何ですか? 
羊やヤギの毛やコットンが主な素材です。
一年中、羊やヤギなどの家畜を連れ、水と草を追い求めて移動を繰り返した遊牧民は、移動の過程で手に入る素材や植物を工夫して使ってきました。

糸を作る:

3.キリムに多く見られる羊の毛ですが、どこを使うのですか?
一番柔らかい毛が、子羊のノド部分の毛でコルクウールと呼ばれます。そして首筋、肩、背中の柔らかい毛も高級品扱いです。
4.いつ刈り取った毛が、良い毛なのですか?
羊の毛は、春と秋に刈ります。秋の終わりから冬の間をぬくぬくと過ごし春に刈られる毛は、運動量が少ないお陰で柔らかく繊維が長いのです。上質のキリムにはこの毛が使われています。
春から夏を牧草地で元気一杯過ごし、秋に刈り取られる毛は、上質には違いありませんが、繊維が短いため、フェルト用などに使われます。
5.遊牧上質の毛はどのように見分けるのですか? 
上質の毛は繊維が長く、ツヤがあり、シャキッとした感触があります。その毛で織られたキリムは、しなやかで、床に吸いつくように納まり、シワが出来にくいです。また、汚れにくいと言った特徴もあります。
6.反対に良くない毛とは、どのようなものですか?
毛の繊維が短く、色がくすんでおり、糸にツヤがありません。ゴワゴワとして感触が良くなく、広げた時、床に納まりません。
7.織り手の女性たちが毛を刈るのですか?
羊の毛の刈り取りは、遊牧民にとり、季節の節目の大きな行事でした。
普段、家畜の世話をし、キリムを織るのは女性たちですが、毛を刈り取る作業は、男性の手で行なわれました。部族のお祭りのような行事だったのです。
8.刈り取ったモコモコの毛を糸にするのですか?
毛を刈り取る前に、羊をきれいに洗い、汚れを落とします。刈り取られた毛は、ごみや油、汚れなどを取り去り、櫛でけずり、梳いて(すいて)いきます。
9.用途により、梳き方(すきかた)がありますか?
セーターに使う毛は、ふんわり柔らかく仕上げます。キリムに使う羊毛は、毛の繊維の方向を揃えながら梳いていきます。糸に紡ぐときにしっかりと撚りがかかります。また、染めた時の発色も良く、文様も美しく、キリムの表面が滑らかに仕上がります。
10.その毛を、糸にするのですね?
そうです。糸に撚るには、トルコ語でイーやキルマンと呼ばれる、十字の形をした棒や、コマのような円錐形の弾み車が付いたものです。
これらを右手に、梳き終わった羊の毛を左手に、左手の道具の端を指で強く回転させながら離すと、毛に撚りが掛っていきます。
この方法は千年も、二千年も前から変わることなく続いています。
11.糸を紡ぐ道具はほかにもありますか?
糸に固く撚りをかけたり、細い糸を撚る場合は、糸車が便利です。
12.遊牧民の織り手は、どれを使っていたのですか?
移動を繰り返した遊牧民は、道具は簡素で、かさばらないが大事な条件でした。また、テントの外で作業をする織り手たちは、手を動かしながら、口も動かせるというメリットがある、イーやキルマンを現在も、田舎では使っています。
13.いつも手を動かしている、という事ですか?
遊牧民の女性たちは、羊の世話、搾った乳の加工、家族の世話、そしてキリム織りと、目の回るような毎日でした。
5~16歳で嫁ぐ娘の持参品キリムを揃えるには、絶えず手を動かさなくてはならないほど、糸紡ぎは大変な作業でした。
織り機に糸を掛ければ、織りの8割は終わったと言われるほどです。
14.現代でも糸を手で紡いでいるのですか?
現代のキリムは、機械に油をさしながら、機械が糸を紡いでいます。お陰で新作キリムは、買い易い価格です。
15.手で紡ぐ糸と機械で撚る糸には、大きな違いがありますか?
人の手による糸は、しなやかで弾力性があります。染料が繊維に深くしみ込み、美しい濃くのある色に染め上がります。機械紡ぎは、
機械に油をさしながら撚るため、時間が経つとその油が黒ずんで糸の色も薄汚れた印象になります。
現在、手紬がほとんど見られないのは、コストが高いためです。
16.大変な糸紡ぎは、他の地域でもあったのですか?
古代ローマ時代、糸を紡ぐということは、どの家庭でも祖母、母から娘への伝承であり、女性の義務であり、特権であったそうです。大変な事ではなく、女性としてのたしなみだった様です。

糸を染める:

17.糸が出来たら次は染色ですね?
キリムは色がすべてです。深く澄んで、底光りするように輝く色が、織り手の目指したキリムの色です。
18.どのような順序で糸はそまるのですか?
色の原料になる植物採集から染色は始まります。
いつも移動していた遊牧民にとり、山野で採取した植物は、染料であり薬草であり、物々交換の対象となる貴重品でした。
アナトリア地方の遊牧民は、夏場、豊かな牧草地である山で生活しながら、木の根や草の根、木の皮などを採取し、十分に乾燥させ染料に使いました。
19.いよいよ染めですか?
最初の作業は、糸を水に入れ、汚れや余分な油を除くため洗剤を入れ、グツグツ煮たてます。湯から取り出し冷まし、洗剤をきれいに洗い流し、糸を乾かします。
20.次は染料をいれるのですか? 
染色用鍋に水を入れ、温まったら色が良く染まるように媒染剤を入れ、良く溶かした後、糸を入れ、グツグツ煮ます。その後、糸を取り出し冷まします。媒染処理はより鮮明な色に仕上げる大事な作業です。
21.いよいよ染色です。
糸を染料の入った鍋に入れ、必要な時間煮ます。液に入れたまま冷まし、取り出した後、完全にすすぐか、乾燥させる。
糸が染まったら、再び元の媒染剤の鍋に入れ、また、グツグツと煮立て、糸を取り出し、乾燥させる。
この工程を繰り返しながら、色を固定し、希望の色に染め上げます。
22.染料となる色は豊富だったのですね?
イスタンブールと青森の緯度が同じです。私たちが豊かな色調を享受出来るように、この地域を移動した遊牧民は、豊富な植物を手にし、色使いを楽しめました。キリムは色がすべてとトルコで言われる所以です。
23.トルコキリムは赤色が印象的ですが、染料は何ですか?
トルコでは草木染めを、キョク=根、ボヤ=染料「キョクボヤ」と言います。
これは、茜の根からの赤い染料を指します。草木染めが当たり前であった時代、古くからあった茜が染料全体を代表していたと言う事です。
24.その他に、良く目にする染料は何ですか? 
藍色です。トルコではインド藍が使われてきました。インド藍は、紀元前2000年ころの古代エジプトで、すでに染色材料として使われていたと言われています。インドから西アジアに生息する
藍は、地中海、インド洋経由、あるいはシルクロードなどのルートで、世界各地へ運ばれたのです。
藍は、様々な表情を持つため、羊毛、絹や綿など、あらゆる繊維を美しく染め上げる染料として、世界中で重宝がられています。
25.黄のきれいな色もありますね? 
黄色系は、オニオンの皮、サフラン、ターメリック(うこん)、ピスタチオの樹皮やアプリコットの葉などから出せます。
芳醇なアナトリアの土地からの贈り物です。
26.黄緑や緑色は、染色が難しいと聞いたことがありますが?
緑系の色は、ウォールナット(くるみ)やオリーブの葉を使いますが、出てくる色は、緑に黄土色を含んだような色です。
植物の葉の緑を目指し、織り手たちは藍色を加えながら、緑色作りに励みました。来生を信じる彼らは、緑色を「天国の色」「楽園の色」と大事にし、濁りのない色出しを目指しました。
27.黒色はなんで染めたのですか?
黒が染まる天然染料はありません。茜色に染め、その上に藍色を重ね、黒色に近づけます。あるいは、濃い天然の糸の上に藍色を何度も掛けながら、黒に近づけます。
現在では、化学染料で黒色が染められます。
28.化学染料が出来たのはいつですか?
最初の化学染料は紫色で、1856年、イギリス人により発明されました。1868年には、ドイツ人化学者が茜に含まれる色素のアリザンの合成に成功し、またたく間に世界中に広まりました。
29.トルコでは、いつごろから使われ始めたのですか?
植物では出せない化学染料の色は、発明時から女性たちの憧れの染料でした。が、当時は、卓越した技術の持ち主や、部族長の一族のみが使えた特別の染料でした。
ムラなく、鮮やかできれいな色に仕上がる化学染料は、輸出を手がける業者たちに歓迎され、1920年代には盛んに使われる染料となりました。
30.遊牧民たちの染料も、化学染料に代わって行ったのですか?
幸いにも、キリムは彼らが、先祖代々伝え継いできた部族の自家用の家具であり、娘の嫁入りの持参品でした。お陰で、草木染めの糸が使われる事が多かったようです。
1970年頃には、草木と化学染料を併用していました。20~30年位前のキリムでも、草木染めで、アクセントに化学染料を使用しているキリムに出合います。

キリムを織る:

31.キリムはどこで織られているのですか?
昔は、おもに中央アジアから中東、北アフリカにかけての乾燥地帯や草原地帯で織られていました。現在では、トルコを始め、イランやカフカス地域などで基幹産業となり、インテリアの必需品として、世界中に向け輸出されています。
32..キリムと絨毯の違いは何ですか?
キリムは毛足のない平織りでラグと呼ばれます。
絨毯は長い毛足のパイル結びの織物です。
33.キリムの厚さはどれくらいありますか?
3~5mm位が昔のキリムです。織り手の技術や部族の伝統により、キリムの厚さが違います。現在のインテリア用のキリムは5mm前後です。
34.キリムはどうやって織っているのですか? 
キリムは、織り機に張られた縦糸に、横糸を色ごとに、縦糸が見えなくなるまで、詰めて織ります。日本ではつづれ織りと呼ばれる織り方です。
35.キリムを一枚織るには、どの位時間を掛けているのですか?
織り手、サイズや素材によりかかる時間はかわってきます。
例えば、2人掛けソファ前によく敷かれる長さ1.5mx幅1位の場合、糸を作り、染め、織り上げるまで、現在の織り子は約1か月を要するそうです。

 

36.キリムの色は、何で染めているのですか?
現在のキリムの多くは、時間や手間や経費の少ない、化学染料で染めています。
昔の遊牧民のキリムの多くは、お金のかからなかった植物染料が使われています。
37.植物染料を使ったキリムは高いですか?
トルコでは、植物染料であれ、化学染料であれ、糸、染め織りの三拍子が揃ったキリムには、高値がついています。
38.曲がっているキリムが多いように思うのですが?
キリムは型紙を使わない織物です。
織り手のその日の感情が織り込まれるのがキリムと言われます。
人の感情は日々変わります。その感情や心の変化の表現がキリムであり、キリムが手織物である証明です。
39.型紙を使わないで、どのように柄を付けるのですか?
昔の織り手は5歳位から、織りをする母や祖母のそばで、その手に、その感覚に、織りのすべてを刷り込んでいきました。現在の織り手は、デザインのモチーフや小さな部分柄を伝えられますが、創造力を馳駆ししながら、先祖と同じスタイルで織りをしています。
40.キリムに穴が開いているように見えるのは、どうしてですか?
これはトルコキリムの特徴です。トルコでは、横糸の色糸と色糸を重ねず、それぞれを折り返すため、そのスリットが穴のように見えます。
お蔭で、デザインがすっきりとしています。オスマン・トルコ400年の歴史が生み出した美学ではないでしょうか。ちなみに、イランではスリットは作らず、色糸と色糸を重ねるため、柄の輪郭がぼやけます。
日本では、この織り返しを「斫目(はつりめ)」と言います。
41.キリムを織る糸は、どのようにして手にするのですか?
キリムの糸は、彼らが飼育していた羊やヤギの毛です。乳はチーズや飲み物に、肉はハレの日のご馳走に、毛は移動に便利な家具へとなりました。現在のキリムの糸は、ほぼ工場で生産しています。
42.どのような工程でキリムは織られるのですか? 
家畜の毛を刈り、汚れを取り除き、手で紡ぎ強い一本の糸にし、織り機に掛け縦糸にします。植物で様々な色に染められた糸は乾燥させた後、横糸に使います。
織り込まれた横糸を縦糸が見えなくなるまで詰めるとキリム織り(つづれ織)です。現在の多くのキリムは、機械で撚られた糸が使われていますが、すべて手で織られています。
43.キリムはなぜ詰めて織る(つづれ織り)なのですか?
一枚のキリムの中に柄を付ける為です。キリムの織り手たちは、キリムの中にドラマや歴史やストーリーを織り込んできました。
それを織物で表現できるのがつづれ織りです。横糸を5cm縦糸に織り込み、それを縦糸が見えなくなるまで詰めると5mmになり、柄が付けられます。
44.キリムの織り方は色々あるのですか?
キリムは平織り物の総称です。遊牧民はそれぞれの織り方を伝統的に織り継いで来ました。柄を立体的につけるジジム織りやズリ織り、画面全体を刺繍糸で埋めたようなスマック織り、縦糸で柄を表現するジャジム織りなど、多種あります。
45.平織りをキリムと呼ぶのですか? 
日本で綴れ(つづれ)織りと呼ばれている織り方を、キリム織りと呼んでいます。
縦糸に入れた横糸を縦糸が見えなくなるまで詰めていく織り方です。

つづれ織り
46.どうして詰めて織るのですか?
キリムに柄を付け、気持ちや創造性を表現するためです。
また、寒さ予防です。
47.ジジム織りとはどんな織り方ですか?
縦糸に地になる横糸を入れた上に、柄を付けたい色糸を色ごとに横に入れていく織り方です。キリム織(平織り)の三倍も時間がかかりますが、立体的に柄を付けたい場合最適です。

ジジム織り
48.ズリ織りとはどんな織り方ですか?
ジジム織りと同じく、縦糸に地になる横糸を入れ、その上に柄になる色糸を横に入れ、キリム全体を埋めていく技法です。
その際、上下に横糸が見えるように一本の線を通します。
日本の畳のようなイメージです。

ズリ織り
49.ジジムやズリは何に使われたのですか?
トルコのヤストクやチュアルによく使われた技法です。ヤストクはトルコ語で枕、寸法は約90x60cm位です。チュアルは衣類袋で、120x80cm前後の大きなクッションのような袋です。
草を求め次の牧草地に移動する際、ラクダやロバの背に積まれるこれらの袋は、遠目が効くように、立体的でおしゃれに作られ、織り手の技術の高さを誇示しました。
50.スマックはどんな織り方ですか? 
入れられた横糸の上に、色糸を斜めに入れながら画面全体を埋めていく技法です。細かく時間を要する作業は、さすがペルシャ絨毯の国の織物です。

スマック織り
51.ジャジム織りはどこの織り方ですか? 
中央アジア、特にウズベキスタンの織物に見られる技法です。
キリムは横糸で柄を付けますが、ジャジムは縦糸で柄を表現しています。
縦糸に強い撚りをかける織り方です。その強さのせいで幅が40cm位までしか織れません。30m位の細長い細い織物を作り、必要に応じカットし、縫い合わせ必要なサイズの物を作ります。

ジャジャム織り
52.どうして色々な技法があるのですか?
昔から、トルコにやってきた遊牧民は1000も2000もあったと言われるほど、様々な遊牧民がそれぞれの部族に伝わる技法を、伝統として織り継いできました。
どの部族も先祖を敬い象徴である伝統を、誇りを持って伝え継いだお蔭です。

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