約100x50cm前後のクッションのように細長い袋は、テントの中では寛ぐ時のクッション、移動の際は、ロバやヤギなどの背に括り大切な穀物や装身具などを運びました。
家族団らんの中心に置かれるクッションは、家族の誰にも心地よく、明日へのエネルギーとなるよう織り手の思いがたっぷり込められています。
そして、移動の際、多くの人々の目にさらされる同じクッションは、部族の象徴です。上等のウール、染め、織りの三拍子が揃ったお陰で、時空を超えて、当時の表情を楽しませてくれます。
1m以上あった細長い袋を、表と裏の2枚に分けました。
こちらは表側のジジム織りです。左の写真は、下部に細い丈夫な紐が縫い付けられていた名残です。光の当たらなかった部分は、紐がかかっていた通りに跡が見えます。
織り手の几帳面な性格が伝わってくるエレガントなキリムですが、本来の表情も残してみました。どんなに美しいキリムでも、それはすべて家具としての実用品であったことを伝えています。
シルクロードの中継点であったウズベキスタンの夏は、40℃にもなる気温が過酷です。しかし、乾燥地帯ゆえ、ホテルの外で汗をかくことがありません。瞬間に、蒸発してしまうのです。
2リットルのボトルを抱え、水分補給をし続けながら観光地を歩いたのが、懐かしく思い出されます。
それにつけてもこの湿度の高さが、私達には過酷です。
中東遊牧民女性の衣装は、どれも魅力的です。
織り手の織りや刺繍の技術高さを誇示する衣装は、それが普段着であれ、ハレの日の衣装であれ、織り手達は精一杯の仕事をしています。
キリムも衣装もすべてが手仕事の時代、織り手達の尽きることないエネルギーに、感心させられます。
西トルコ・ヘルワジの珍しいヘイベです。
ヘイベはロバやヤギの背に掛けた物入れです。草原をゆらゆら揺られながら、次の牧草地を探す遊牧民の姿を想像すると、暑い夏でも、どこからかの心地よい風が感じられます。
多くのキリム好きのお客様は、個性的な空間作りを楽しんでいらっしゃいます。一枚のキリムが季節や気分により、違った表情を見せてくれます。
ロシア、カラバの伝統的キリムの色調は深い赤と藍です。
細く丈夫な縦糸と横糸を使い、どこまでも強く薄く織られたキリムは、高い技術を必要とされるものです。その丈夫さは修理糸が通らない程で、修理人泣かせのキリムとも呼ばれてきました。
そんなカラバを織る織り手が、織ったキリムです。
伝統とは違いながらも、その技術は100年を超えた表情を見せています。
30年前、イスタンブールのグランドバザールもアラスタバザールも、東トルコのクルド族のキリムで溢れていました。右をみても左を見ても、どの店もクルド・キリムでした。
2000年もの遊牧生活を続けた彼らは、常に羊の毛の改良を心がけてきた結果、上質のウールのお陰で、透明感のあるキリムを織り継いできたのです。
藍、赤と白のメリハリある色調で大きな眼や星の幾何学文様は、新鮮であり、上等の仕上がりに魅了されたバイヤー達により、世界中に紹介されました。
オスマン・トルコは凄かった!
北アフリカ、中東、東欧、カフカス地方など、多くの地域を支配下に置いたとき、彼らは「良いものは良い」との考えから、否定することなくキリムの文化に融合させてきました。
お陰で、それぞれの地域の伝統もトルコの文化の一部として、このように伝えられています。
お楽しみください。
いつだったか、どこかで目にした記憶が蘇ってくるような懐かしさのある古布は、ジャジム織りの技法を使ったカフカス地方のものです。
ジャジム織りは、縦糸に柄を付ける、この地域に伝えられた技法です。
経糸に何回も強く撚りをかけ、織機に経糸を張る段階で、柄は出来上がっています。撚りの強い経糸のせいで、織物は幅約30cmくらいが限界です。高い技術が要求されるジャジム織りは、熟練した織り手のみが携われる織物です。
赤、藍と深い緑の組み合わせが、天然のベージュとよくマッチし、独特の世界を見せてくれます。
カラバキリムのアンティークはロシア産です。
100年より若いカラバは、アゼルバイジャン領にいたアルメニア人が、そして、現在トルコでカラバ・キリムと呼ぶキリムは、カフカス地域から東トルコ、エルズルム周辺に移動した人々により織られています。
この地域の歴史を見る思いがします。
ギョムルゲンは、中央アナトリア、コンヤ地方のカイセリ近郊にある村で、細い糸を使い、キリムの画面を柄で埋め尽くしている産地として知られてきました。
魅力的な落ち着いた赤色と茶色のシックな雰囲気の柄で埋め尽くされたキリムですが、織り手のやる気が強すぎたのでしょう、縦糸を必要以上に引っ張り過ぎたため、所どころに経糸の切れが見られました。
床に敷くキリムとして使うことはあきらめ、裏地をしっかり張り、おしゃれなクッションに再生しました。
艶やかな天然のナチュラルベージュと組み合わせで、細かい仕事が美しいクッションは、存在感を示しながらアートな空間を作ります。
100年以上前のキリムは、褪色を見せていません。
色は神様からの贈り物というトルコキリムですが、中には、自分が目指した色に向かい、懸命に努力を重ねた人たちもいました。
染められた当時の面影を伝えるそんなキリムに、トルコでは高い評価を与えています。さすが、トルコですね。
KJ39281と同じキリムを、まるでコットンのように細く丈夫に撚られたコンヤの上質の天然ウールで包みました。シルクのようにつややかな白いウールに囲まれたシバスは、気持ちよさそうで穏やかな明るい表情になりました。
無地のアンティークキリムが幾何学文様の伝統柄に柔らかさをもたらすお陰で、置かれる場所を選ばないクッションになりました。
東トルコ・シバスには、織り継がれてきた4x2mほどの大きなキリムがあります。
現代では織る人もおらず、大変な貴重品ですが、その大きさゆえ、輸出が始まったころから、クッションの様な小物となり、キリム好きを楽しませてきました。
上質のキリムは、100年経過しても、糸も、色も、織りも、びくともしていません。
ついそこにいそうな100年を、手にとり感じられるキリムです。
70~80年と90年ほど前に織られたキリムを組み合わせました。
眼、S字フック、鳥などがデザインされているのは、シバスのオールドキリムです。
シバスは古くからの商業都市であり、にぎやかな街は交易に訪れた人々で活気に溢れていました。
遊牧の道中、この街を通過する織り手たちは、目に映る全ての光景を興奮しながらそれぞれの感性に刷り込んでいったのでしょう。伝統から少し離れたモダンな色使いは、織り手達が受けた刺激を物語っています。
100年に近い天然の濃茶の落ち着いた風合いに、中心の色糸も大人の雰囲気を見せている、使いやすいパッチワーククッションです。
トルコでは植物では出せない緑色を、楽園や天国の色と呼び、最も格調高い色です。
高い技術を持った織り手が染め上げた鮮明で濁りのない色は、評価され大事に伝え継がれてきました。
光に愛された表も裏も柳色ですが、光が当たらなかった糸と糸が交差している部分は、青紫色です。
どうして?自然のいたずらか?織り手の作戦か? お楽しみください。
キリム織りは、一生をかけて完成に近づくということを、若い織り手のキリムが教えてくれます。
織り手達はいつも試行錯誤しながら、織りの技術を上げ、人間力を身に付けていったのです。キリムが放つ様々な深さは、見る者を飽きさせません。
見事な仕事のキリムです。
織り手の性格が伝わってくるように、品の良いキリムです。
糸、染、織りの三拍子が揃い、自然の力が加わった100年前の秀作には、見る者を高いテンションに運んでいく力を感じます。
左右の縦糸の色が違います。
熟練した織り手をまねた若い織り手の苦闘が見れるキリムです。やはり、キリムを織る事とは、日々を生きる事と同じです。
コツコツと毎日の積み重ねが高い技術につながり、それを身に付けた織り手のみが、工芸品を生み出せるのです。