キリムNo.: KJ25441
産地: コンヤ、アンティーク刺繍織り(ウール/ウール)
寸法: 143x100cm
価格: 176,000円
まるで神の手によるものかと思えるほど細いウール糸を撚ったのは、100年以上前の織り手です。画面全体に見える刺繍のような織りはズリ織りです。地を隠してしまうのに、こんなに細い糸をなぜ使っているのでしょうか?
「百数十年は経っているよ。」という問屋さんに「グレーブルーは化学染料よ?色の組み合わせもモダンじゃない?」と言いながらも、白いコットンの横糸の方が地糸の羊の焦げ茶の糸より太い、私たちの常識を破ったキリムを手に入れたのが2001年です。
不思議なキリムです。中央が2枚に剥がれています。真ん中が剥がれていながら柄は左右対称で完璧です。「うん?なぜ?」と思いながら、研究熱心な我がスタッフ、ピンセットを片手に、表裏をひっくり返しながらチェックを始めました。
あまりに細い焦げ茶の地糸の謎が解けました。
地を織ったのは確かに100年以上前の先祖です。先祖は天然の濃い茶の羊の毛で縫い糸のように細い糸を作り、幅が50cmほどの無地の長い布を織りました。間仕切り、寝具カバー、ハレの日や大事な客の時の床敷きなどとして、大事に使い継がれてきました。上等なウールは、高い糸作り技術のお陰ですっかり無駄毛が取れても丈夫です。
しかし、技術をいくら磨いても先祖にはかなわないことを感じていた子孫は、大事な先祖の神業のナチュラルな古布を、いつまでも技術が残るタペストリーに作り替えたのです。
約150cmにカットされた2枚の古布は、縫い合わされました。
先祖を敬い、織りが大好きな織り手は、キリム全体に色糸で刺繍を入れ始めました。織り手は、いつまでも先祖に見守ってもらえるよう大きな「眼」のデザインを、ズリ織り風に刺繍していきました。ズリ織りは、本来、横に入れた地糸と地糸の間に、色糸を織り込みながら柄を付けていく技法です。通常の3倍も時間を要するズリ織りですが、この作業はもっと時間が必要でした。
相当な技術の持ち主である織り手は、先祖の布の上に一針一針、根気強く色糸でデザインをほぼ完ぺきに刺繍しています。からし、臙脂(えんじ)に白い綿糸と、当時は斬新だった化学染料で染めた藍ねずみ色を合わせています。古くなるほど白さを増していくコットンが刺繍のきれいさとシャキット感を保ち、時間を感じさせない古布は、とてもしなやかです。
先祖の神業をこれからも子孫から子孫へと使い継げるという思いに満ちた作業は、楽しくい充実した時間だったことでしょう。彼らの姿勢に心から感服いたします。
*現在は、とても状態の良い古布です。が、これほど細い修理糸はなく、今後修理はできません。現状のお渡しとなります。
眼=邪視除け、 チェスト(箱)=子孫繁栄