キリムNo.: KJ5509
産地: イラン、セネ、アンティークキリム
寸法: 193x122cm
1991年に出合ったキリムです。店の奥の壁に見なれたキリムが目に入りました。黄金色の黒光りするキリムは、「Living with Kilims」という、当時、キリムのバイブルのような本の表紙を飾っていたイランのセネです。セネの伝統柄の、細いボーダーに囲まれた小花模様です。本で見ていた織りの細かさを確認すべく寄って見ると、何とキリムの画面一杯に、あり得ないほど細かい柄がびっしりと織り込まれています。本で見る以上の細かい柄付けに呆気に取られた私達です。
トルコのクルド族と同じルーツを持つイランのセネクルド族のキリムは、その精緻な仕事で知られています。
16世紀から18世紀前半にかけイランを支配したイスラム王朝のサファヴィー朝時代から、セネでは都会や富裕層のために工房で職人達が洗練されたキリムや絨毯を製作していました。残存する19世紀から20世紀前半のセネキリムに、その原型が見られます。
インドのデザインの影響を受けたサファヴィー朝様式の刺繍や花模様や、動物や人間までの広範囲の文様を、工房の職人や村々の織りの名手達は、セネ独自の細かな織りへと昇華させていきました。
他地域のクルド族の自由奔放で部族的で遊牧的なキリムとは大いに違う緻密なセネキリムは、技術的にも審美的にもペルシャ絨毯に近く感じられます。
古いセネキリムのほとんどにコットンが縦糸に使われています。ウールで作るここまで細い糸はひっぱりに弱いため、ほぼ糸が切れる事のない丈夫な綿を縦糸に使うのです。またどこまでも細く撚れる綿は、どこまでも精緻な織りに挑戦する職人達には、最適な素材でした。織り手は横糸に雑巾を縫うように上下、上下と一針づつ進む運針(うんしん)の技法を使い、柄を立体的に動きがあるように織り上げています。大変なる職人魂です。
クルド族の色調は、赤、藍、白が基調です。近年のセネキリムの多くは、この3色を使っています。このキリムは、黒、赤、ピンク、黄、黄緑、白と色沢山です。
特別注文なのか、職人が腕を競い合う競技会なのか、いずれにしろ、職人は全エネルギーを込め、セネの伝統に忠実に沿いながら作品作りに没頭しました。
キリム本来の自由な創造性の世界とは一味違い型にはまったキリムですが、そこには技巧や巧みさが自由さよりも重要であった世界が垣間見えます。
花、種=子孫繁栄、 眼=邪視除け、 鳥=幸せの予感、