キリムNo.: KJ26267
産地: ベッサラビア(Besarabya),アンティークキリム
寸法: 192x157cm
2001年の夏に出合ったキリムです。
イスタンブールでは、アップダウンのきつい坂道を走り下り、あるいは、喘ぎながら坂にへばり付くように数歩進んでは休み、また進みを繰り返しながら目的の店にたどり着く毎日です。私達には体力作りをしているようにキツイ坂道ですが、坂の街イスタンブールに暮らす人達は、涼しげな顔で過ごしています。
ようやくたどり着いた店のウインドーに掛けられたキリムに惹きつけられている私たちに、「ウエルカム・キリムが気に入ったようだね?」と、オーナーは笑顔でドアを開けました。
右も左も幾何学文様のキリムマーケットで、花柄は、家に帰ったかのようにホットさせる懐かしさを漂わせていました。
見馴れた花々が丸い輪に織り込まれたシックな雰囲気のキリムです。コンパスを使って円を描いたのかと思えるほど、左右対称の見事な丸みです。中央の花輪を取り囲むように描かれている小花も、円に描かれています。稲穂、チューリップ、すみれ、アネモネなど、連想ゲームのように次々と花の名が浮かんできます。
高度の技術だから出来る表現にはたっぷりの愛情と思いが込められ、見ているとジンワリと暖かい何かが伝わり、織り手の世界へと導かれます。手に入れる算段をするまでもなく、赤い糸で結ばれたキリムは、私たちの手元にまいりました。
織り手が描いたのは、家族の幸せ、笑顔、喜び、驚き、団結、あるいは、無限に広がる平和な世界、春の訪れ、織り手の花園~~小さなキリムの中に大きな世界が広がっています。
織り手は当然のように縦糸にコットンを使っています。ウールより丈夫で、細く強い糸が撚れる綿は、高い技術を持った織り手には技術の見せ所であり、伝統に従いながらも、自分を表現出来る素材でした。
細い糸作りは根気のいる作業ですが、織り手が創造する世界はそれを超えなくてはなりません。薄くしなやかなキリムを想像しながらの糸作りは、織り手の忍耐力や創造力を一層鍛え、実力以上の作品作りへとつながって行きました。
様々な民族に影響されながら培われたベッサラビアの文化は、織り手の豊かな創造力と精神力のお陰で、誰をも惹きつけ、現代へ伝えられてきました。