キリムNo.: KJ12932
産地: シバス、ベイリーオールドキリム(ウール/ウール)
寸法: 372x124cm
1995年に出合ったシバスです。落ち着いたベージュと柔らかい薄いピンク系の赤の薄紅(うすべに)色がベースの心地よい色調のキリムは、全体に織り込まれた数々の柄と大きさから、織り手の並々ならぬ思いと実力が伝わってきました。
ため息が出るほどの大きさと細かい柄は、来世を信じるイスラム教徒の織り手が、憧れの「楽園」を創造したキリムのように思えました。
注意深く織りを進める織り手は、気持ちを落ち着かせ織ることに集中し、中心の3つのミフラブ、それを囲む柄、そしてボーダーが左右対称になるように織っています。織る時間は織り手だけのものです。手を動かしながら神様との対話は、織り手には至福の時間でした。何の雑念もない精神が統一された時間が生み出した作品です。
3つの大きなミフラブデザインの中には、子孫繁栄を願う「生命の樹」、太くしっかりした幹に止まっているのは、幸せへ向かい飛んで行く「鳥」たちです。
ミフラブを取り囲むのが邪視除けの「眼」です。その中には、邪視除けの「狼の口」、繁栄や力強さの象徴である「羊の角」、幸せの予感の「鳥」、愛と調和を意味する「ユニゾン」が上下左右に丁寧に織り込まれています。
その外側のボーダーにビッシリ規則正しく織り込まれているのは、豊穣を意味する「ベレケット」です。ベレケットの中には、アナトリア(アジア側トルコ)の地母神で、繁栄、多産、豊穣を意味する「エリベリンデ(腰に手を置く女性)」がいます。
織り手は持ちうる力のすべてを使い、まるで柄の見本帳のようなこのキリムに、欲してやまない気持ち「あこがれ」すなわち「楽園」を表現したのです。
穏やかに過ぎる一年、豊かな実り、家族の健康と幸せ、沢山の家畜の誕生、そして自分の仕事に対しての称賛への思いを、一針一針に込め織る事に没頭した織り手です。神様を身近に感じながらの織り手の表情は、「あこがれ」を考えただけで満ち足り輝いていました。
家族の地母神である織り手は、強く、優しく、たくましく、家族とキリムを守り継いできたのです。
ミフラブ文様=礼拝用デザイン、 生命の樹=子孫繁栄、 眼=邪視除け、 ベレケット=豊穣、 エリベリンデ(腰に手を置く女性)=繁栄、多産、豊穣