キリムNo.: KJ27252
産地: ベッサラビア、アンティークキリム(コットン/ウール&シルク)
寸法: 263x194cm
2001年に手に入れたベッサラビア・キリムは、この見事さゆえ、長い間大事に箱に保管されていたそうです。そのせいで、初めて目にした時の色調は重く沈んでいました。
あまりに見事なキリムは、空気に触れ、光を感じ、称賛の声を聴きながら本来のツヤと表情を徐々に取り戻してゆきました。現在では、誰もがため息をつき、目を見張るほどの表情を見せています。
ロシアの南にあったベッサラビアは、15~20世紀にかけオスマン帝国、ロシア帝国、ルーマニア、ソビエト連邦の支配下にあり、現在はウクライナ及びモルドバ共和国の領土となっています。土地の多くは起伏のある草原(ステップ)で、農業に適し、酪農も行われてきました。現在でも農業の盛んな地域です。
15~16世紀、この地域を支配したオスマントルコの人々は、ベッサラビアの織物の繊細さに目を見張り、流れるように織り込まれている花々や、今にも飛び立たんばかりの生き生きとした鳥や動物の洗練度の高さに感嘆しました。
偶像崇拝を禁止するイスラム教・スンニー派が大多数を占めるトルコでは、キリムのほぼすべてが幾何学文様柄で織られています。しかし、彼らは支配する土地の文化を肯定し、「ベッサラビアン・デザイン」として、この美しい具象柄のキリムを認めたのです。
現代でも、花や動物が描かれたベッサラビアン・デザインのキリムは、インテリア空間に優しく馴染みやすく人気があります。
織り上がるまで2~3年を要したであろうこのキリムは、スルタンや高級官僚などからの注文を受けた、どこまでも仕事に没頭できたお抱え職人の仕事に思えます。
縦糸はウールより丈夫なコットンを細く強く撚って使っています。中央の白い花には絹糸が使われています。
色糸の茜と藍は時間が褪色させた色です。気の遠くなるほど細かい横糸入れは、デザインに立体感と動きを出すため、雑巾を縫うように上下、上下と針を繰り返していく「運針(うんしん)」の技法を使っています。
絵画のように描かれている花々は、このキリムを注文したパトロンの庭園に一年を通して咲く花々でしょう。その庭園に顔を出す動物や鳥たちも参加しています。
豊かな草原が生みだしたキリムからは、100年前の芳醇な土地や人々が感じられます。