KJ15392

KJ15392、261x117cm、ムット, アンティークキリム

キリムNo.： KJ15392

産地：ムット, アンティークキリム

寸法： 261x117cm

１９９７年の冬、トルコ語しか話さない問屋さんの一番上のお兄さんが手招きする彼の部屋には、本でしか目にした事のなかった憧れのムットのキリムが広げられていました。
古いのに美しく、しっとりと落ち着いた、丁寧な仕事の、いかにも高価そうなキリムです。
お兄さんはトルコ語で懸命に説明をしてくれました。艶やかで細かい仕事のキリムを見ていると、高揚した表情で何かを行っているお兄さんの言葉が伝わってきました。
英語をしゃべる弟は笑顔で、私たちをただ見守っていました。

お兄さんはきっと、（この時空を超えたキリムが手に入ったのはミラクルだ。１００年以上前、水も空気もはるかにきれいだった時代のキリムは、私たち遊牧民の宝だよ。時間と共に、益々、本領を発揮できるキリムだ。）と、言っていたのでしょう。

私たちの探し物を理解している彼らは、これ以降、キリムズジャパンのパトロンのような存在として、文化を伝えるキリムの確保に力を貸し続けてくれています。

ムットは、トロス山脈の標高２０００ｍほどに位置する地域です。ここは先祖の遊牧生活を大変誇りにし、現在でも半遊牧生活を好んで送るヨルック族のいる土地です。

中央を複雑なメダリオン柄で繰り返し広がりを持たせていく柄付けが、ヨルック族に伝え継がれてきたデザインです。彼らのキリムは、この様に茶色と白を並列に置くことにより、大胆なキリムのイメージが強いものです。

誰もの目を惹く、基準を超えたこの美しさは、卓越した技術を持った織り手の緻密な計算が生み出しています。
上等のウールは、使い込むほどツヤを増し美しくなる事を知っていた織り手は、茶色、赤褐色、藍色、若草色に染め分け、天然の羊の白と濃い茶を加えました。染めたばかりの濃い色調も、時間、光と空気がゆっくりと褪色させてくれます。
子孫の手本となるキリムは大事に使い継がれることを想定し、強く固い糸を作り、時間を掛け丁寧に織りました。

１００年を超えたピカピカのウールが惹き出すそれぞれの色は、時に、織られた当時以上の表情を見せ、時空を超えたキリムの世界に見る者を誘います。